大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(ネ)980号 判決

控訴人等は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は被控訴人において被控訴人は本件建物は公設小売市場として大正十三年建設以来昭和二十年四月閉鎖まで二十数年間、通称三味線堀市場として都民に親しまれて来たもので、終戦後都民経済生活の安定並びに地元民の消費生活の利便のために公設小売市場として再開する公共上の必要に基き、本件賃貸借期間満了前六月ないし一年前である昭和二十四年九月一日に本訴を提起し、もつて更新拒絶の意思を表示した。故に昭和二十五年三月三十一日の経過と共に期間満了により、貸借が終了したので、目的物たる本件家屋の明渡返還を求むる次第である。と述べ、控訴人等において本訴は家屋の賃貸借期間満了前に提起されたもので、家屋明渡を求める将来の給付の訴は不適法である。また将来の給付の訴を訴訟の進行中に履行期が経過した後、現在の給付の訴とすることは請求の基礎を変更するもので、不適法である。仮に請求の基礎を変更しないとしても、少くとも請求を変更するものであるから書面でこれをなし、その書面は相手方たる控訴人に送達するを要するところ、被控訴人はその旨の書面を提出せずに請求を変更したのであるから、不適法であり本訴は却下せらるべきである。被控訴人が本訴の提起により本件賃貸借の更新拒絶の意思を表示した事実を否認する。また被控訴人の本件賃貸借の更新拒絶には正当の理由がない。被控訴人が本件建物を公設小売市場として再開せんとし、且つその必要があるという事実は否認する。と述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

先づ控訴人主張のように、本訴が将来の給付の訴として不適法なりやを按ずるに、被控訴人の主張によれば、被控訴人は家屋の賃貸借期間満了するも、賃借人たる控訴人富田は家屋を明渡さないおそれがあつたので、本訴の提起によつて本件賃貸借の更新を拒絶するとともに期間満了のときに本件家屋を明渡すよう訴求したというのであるから、かゝる将来の給付の訴が適法であることは明かである。よつて控訴人の右主張は理由がない。次に控訴人等は将来の給付の訴が訴訟の進行中履行期の到来により現在の給付の訴となる場合は請求の基礎に変更があると主張しているが、この場合には訴訟物たる権利が全く同一であり、訴の原因もまた同一であるから請求の基礎に変更のあることとはならない。

さらに控訴人等は将来の給付の訴が右のように現在の給付の訴となる場合は書面をもつて請求の趣旨を変更するを要すると主張しているけれど、民事訴訟法第二百三十二条に請求の変更は書面によつてなすを要することとしてある理由は請求の変更を明確にするためであり、訴訟の進行中時の経過により将来の給付の訴が現在の給付の訴となる場合は請求の趣旨の表現に異動はあつても請求の趣旨は同一であり、その間いささかも明確を欠くおそれがないから民事訴訟法第二百三十二条にいう書面によつてなすを要しないものと解すべきである。

よつて進んで本案の請求につき判断する。被控訴人が昭和二十年三月五日その所有の東京都台東区浅草小島町一丁目三十三番地所在鉄筋コンクリート造二階建一棟建坪百二十四坪八合九勺の内階下三十二坪八合八勺を控訴人富田に賃貸期間同年五月一日より昭和二十五年三月三十一日まで賃料一ケ月金百六十円毎月二十五日払と定めて賃貸しその後昭和二十一年二月七日更に右建物階下八十八坪一合二勺を貸増し、賃貸期間は変更せず賃料を一ケ月六百五円と改めた事実、控訴人富田が右建物の中賃借せざる残余部分三坪八合九勺をも現に占有している事実は当事者間に争がない。

而して被控訴人は右賃貸借が前示期間の満了により終了したことを理由として目的物たる本件建物の明渡を求めているのであるが、右賃貸期間満了の六月ないし一年前である昭和二十四年九月一日本訴を提起し、控訴人富田に対し右建物の明渡を求めたことは当裁判所に明かなところであつて、右は被控訴人主張の如く当然賃貸借更新の拒絶の意思表示としての効力を有するものというべきである。元来賃貸借の更新の拒絶の方式には何等の制限はないのであつて、賃貸借契約の存続を欲しない意思が明かに表明されるだけで十分である。(昭和二四年(オ)第七二号最高裁判所第三小法廷昭和二十五年五月二日の判決参照)しかして成立に争いない甲第一号証の一ないし三第三号証の二原審証人吉田武三当審証人長沼金次の各証言原審及び当審における控訴人富田本人尋問の結果を綜合すれば本件建物は元来東京市設小売市場として大正十三年に建設せられ、それ以来二十年余小売市場として使用せられたが太平洋戦争末期市場閉鎖のやむなきに至つた際、控訴人富田が浅草区民戦時工業生産団という名称で機械製造工場として使用するために同人に賃貸せられた事実、終戦後台東区議会の経済委員会或いは建物処理委員会において本件建物を再び小売市場とする必要を認め、昭和二十二年頃より控訴人富田に対し、これが明渡を交渉し居る事とを認めることができるのでこのような事情の下においては被控訴人の本件賃貸借の更新の拒絶は正当の事由あるものというべきである。それ故本件賃貸借は昭和二十五年三月三十一日の経過をもつて終了したものというべく、控訴人富田は本件建物中前記認定の賃借部分を被控訴人に対し明渡すべき義務がある。控訴人富田が現に占有し居ることが当事者間に争いのない本件建物中控訴人富田の賃借せざる部分三坪八合九勺の占有権限については控訴人富田は何の主張立証をなさないので、その占有は適法の権限に基かぬものと認めるの外なく、控訴人富田は右部分もまた被控訴人に対し明渡すべき義務がある。

控訴人小林、黒崎が本件建物中被控訴人主張の占有部分を被控訴人に明渡す義務あること並びに控訴人富田が被控訴人に対し金千二百十円及び昭和二十五年四月一日より本件建物明渡ずみまで一ケ月金六百五円を支払う義務あることは原判決説示のとおりであるからこゝにこれを引用する。

よつて控訴人等に対し被控訴人主張の本件建物部分の明渡を求め、控訴人富田に対し右金員の支払を求める被控訴人の請求は正当として認容すべく、これと同趣旨の原判決は正当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却し民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤直一 山口嘉夫 猪俣幸一)

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